東日本大震災が起きた10年前のあの日、私はシナリオライターとしてのお仕事なんてほとんどなく、バイト先だった中華料理屋で働いておりました。
お昼時を過ぎ、店内にはお客さんがほとんどおらず、あと1時間ほど働けば自宅へ帰れるところで、同僚が外の様子のおかしいことに気づいたんですね。
街路樹に隠れて休んでいたはずのハトの群れが、ウワーッと空へ飛び立ったんです。
あんなにたくさんのハトが一斉に飛ぶのをみんな初めて見たもんで、暇していたのをいいことに、みんなで店頭に立って空を見上げていたところへ、ドンッと突き上げるような衝撃ですよ。
思わず隣にいたパートさんと手を握り合い、しゃがみ込んだことを覚えています。
少し遅れて「地震か!」と気づいた私が考えていたことは、生まれて初めて体験する震度5を超えた揺れへの恐怖と、「やっぱり動物は人間よりも敏感に地震を察知して逃げるんだなぁ」という、のんきな感想でした。ほんと、のんきなもんですね。
店員がみんな外にいたせいで、棚に積まれたラーメン丼や餃子の皿は割れて粉々になりました。ニュースで見るような地震後の光景に、ようやく「こりゃ大変だ」と感じましたが、実際の震源地は関東でなく東北で、皿が割れる程度では済まない被害を、テレビで観ることになったんですよね。
これだけ鮮明に記憶しているあの日が、もう10年前ですか。早いですね。
とはいえ、私はこの日のことを、いつまでも鮮明に思い出すのでしょう。
そして、何年経っても「早いですね」というのでしょう。
忘れられるワケないのですよね。