どうも、恋愛指南本にも何冊か関わったことのあるライターの山口だよ。
執筆や編集をする過程で、恋愛心理学や人類学についてかなり勉強致しました。
くっ……世界一の悪女・ナオミちゃん天才ッ!!
(※私はあくまでも素人ですが)心理学的にも人類学的にも、人の転がし方がマーベラス!! もはや人心掌握の教科書!!
……って、思ったんですね。
いやまあ、女の嫌いな女No.1、稀代の悪女、読んでいてイラッとすることはイラッとするんですけど、あまりにも天才過ぎて、ぐうの音も出なくなる感じ。
悔しい。
悔しいが、圧倒的天才の前に凡人は無力……もはや、ひれ伏すしかないのです……。
じゃあ、一体どんなところが天才なのかと申しますと、『痴人の愛』のあらすじに関しては、↑↑の記事を読んでいただきたいんですけど、主人公・譲治は、始まりからナオミの下僕になるべくしてなったようなものなんですね。
15歳のナオミを養育目的で家に入れ、英語や音楽を習わせてやり、金をかけて着飾ることをよしとし、ありとあらゆるワガママを、出来得る限り許してやった譲治──
人は、時間や金、労力等の「コスト」を費やした分、「報酬」を欲しがる生き物です。
「コスト」を払ったほうは、満足のいく「報酬」が欲しいため、それを得られるまでは相手のことを手放せなくなるなんですね。
譲治のように次から次へと「コスト」を支払っていたら、いつまで経っても「コスト」に見合った「報酬」を得られず、のめり込む一方になるんですよ。
つまり、恋愛は「コスト」をより多く支払ったもん負け。
尽くしたほうが執着して、捨てられたくないばっかりに、ますます尽くす負のループに陥っちゃうというワケですね。
一生愛して欲しいなら、相手に延々と「コスト」を支払わせちゃえばいいのです。
恋愛は先に惚れたほうが負け、という話はよく聞くんですが、これは要するに、先に惚れたほうが、振り向いて欲しくて「コスト」をより多く支払う、ってことだと思うんですよ。
『痴人の愛』において、ふたりが暮らし始めた当初は、譲治が勝手に貢いでいたようなもので、ナオミにしてみれば、相手の執着を高めて下僕にしようという意志はなかったと考えられます。
悪女ナオミも、15歳の時は無邪気で可愛い女の子だったはずなんですよ。
それが譲治の振る舞いから味をしめ、おそらくは直観で「コスト」を支払わせることの利点を知ったナオミちゃんは、そのあとから譲治にジャンジャン「コスト」を支払わせ、その反対に、「報酬」は満足いくほど与えないという、生殺し戦法で攻めるのです。
その最たるものは、小説の終盤、ふたりが1回夫婦関係を解消し、譲治もナオミへの未練を振り切り、彼女とは「友だち」に戻った時のこと。
「譲治さん、あなたいゝ児(こ)ね、一つ接吻して上げるわ」
と、彼女はからかい半分によくそんなことを云ったものです。からかわれるとは知っていながら、彼女が唇を向けて来るので私もそれを吸うようにすると、アワヤと云う時その唇は逃げてしまって、はッと二三寸離れた所から私の口へ息を吹っかけ、
「これが友達の接吻よ」
と、そう云って彼女はニヤリと笑います。
友達の接吻って何!? 谷崎先生~~~~ッ!!
これ大正14年の作品だよ!? 息を含ませるだけのプレイってマジ何事!? 谷崎先生の変態性、100年以上先を行ってない!?
……それはともかく、友達の接吻や肌のチラ見せ、肌に一切触れさせずに全身の毛を剃らせる等、ありとあらゆる生殺しで、譲治の「友だちの関係でいよう」という決意をアッサリと打ち砕き、とうとう、
「これから何でも云うことを聴くか」
「うん、聴く」
「あたしが要るだけ、いくらでもお金を出すか」
「出す」
「あたしに好きなことをさせるか、一々干渉なんかしないか」
「しない」
「あたしのことを『ナオミ』なんて呼びつけにしないで、『ナオミさん』と呼ぶか」
「呼ぶ」
「きっとか」
「きっと」
便利な奴隷の一丁上がり♡♡♡
このあと、譲治さんに横浜の洋館をおねだりするんですよ。借家だけど。
家なんて「コスト」支払っちゃったら、もう本当に一生離れられないじゃ~~~ん!!
まあ、譲治に離れるつもりなんてないよなぁ……もう奴隷だもんなぁ……。
小説に、ナオミちゃんのこんなセリフがあるんですよ。
「あたしの恐ろしいことが分かったか」
分かったよ、この悪魔の化身~~~ッ!!!
でも、やっぱ天才!! 師匠になって欲しさがある(笑)
毎日恒例の宣伝を挟みまして。
ナオミちゃんも恐ろしいけど、それを書いている谷崎先生が1番恐ろしいって話よね。
いや、マジで「友達の接吻」ってなんですか、谷崎先生。それどういうタイミングで思いついたんですか、谷崎先生。
大正時代にどんな脳みそ持ってたんですか、谷崎先生。
これだから、谷崎先生のファンはやめられないんだよ。次は何を読もうかしらん。