昨日、川端康成の『母の初恋』についてブログを書きながら、
同じ全集に収録されている「川端康成伝」を読んでいて、面白いエピソードを見つけたんですけど、昨日のブログには書き切れなかったんで、今日は読書感想文の番外編。
川端先生の瞳についての話を、「川端康成伝」から抜粋したいと思います。
……っていうか、この「川端康成伝」、書いているのが吉行淳之介先生なんですよ。
めっちゃ豪華~~~~!!!
レジェンドがレジェンドについて書いてる、全集の冒頭に前座的な感じで挿入されるにしては、あまりに豪華過ぎるよね。
それはさておき。
「川端康成伝」の最後は、川端先生の「眼」について書かれています。
昭和四十一年の川端康成の風貌で、最も特徴のあるのは、その眼である。「あの大きな目を一様に見開いて、ぎょろりと御覧になる」というのは、堀辰雄未亡人多恵子さんの表現だが、「一様に見開く」という表現は適切である。
確かに、川端先生の「眼」って、かなりインパクトがあるよね。
これ笑顔だけど。満面の笑みだけど。
お顔における両目のインパクトが、一般人のそれよりもあるような気がしますよね??
真顔でじっと見られたら、何も悪いことをしていなくても、なぜかビクビクしてしまいそうです。
昨日、川端先生の作品には一種の「怖さ」があると書きましたが、
川端先生は、「眼」も怖いらしい。
さて、吉行先生の「川端康成伝」の続きに戻りましょう。
その眼は若いころからそうだったのだろうか。梶井(基次郎)が、「薄気味わるい」と評しているように、その気配十分だったとおもえる。
梶井先生ひどい。
薄気味悪いって(笑)もうちょっとマイルドな表現はなかったもんか。
ま、薄気味悪いのことは一旦置いといて、話は昭和3年、29歳だった川端先生のお宅に、梶井先生がお泊りした日の夜のこと。
川端夫妻は寝床に入っていたが、まだ眠ってはいなかった。隣室で足音がしたので、二階の梶井が降りてきたのだとおもっていた。寝床の裾のほうの襖(ふすま)が、すうっと開いた。夫婦の寝部屋を覗くとは、梶井も奇怪な振舞をするものだ、と康成は息をこらしていた。
梶井先生ひどい。
……と、思うでしょ。夫婦の寝室をのぞき見るなんて、一体どんな趣味をしてるんだ、と。
ところがどっこい、隣の部屋にいたのは泥棒で、鴨居にかけた川端先生のインバネス(=コート)の内ポケットを探っているという。
よかったよかった、梶井先生は変態じゃなかった(笑)
インバネスを取られては困るな、と康成はおもった。泥棒は、寝床の裾から枕もとの方へ来ようとして、ふっと康成の眼と眼が合った。眼の合った瞬間、その男は、
「だめですか」
というなり、ぱっと逃げ出した。
「だめですか」(笑)
随分と気の弱い泥棒さんですが、川端先生にじっと睨まれたら、逃げるしかなかったのかもしれませんね。
この眼に……。
……この眼に睨まれたら、暗がりだと、より一層怖かったことでしょう。
昔の泥棒さんは、入った家のご主人に説教されて改心したり、なかなか愛嬌のある人が多かったようですから、「だめですか」と言って逃げてしまったというのも、また時代柄。
根はいい人だったのかも。
この泥棒さん、「粉まみれの米屋の小僧のような前掛け」をしていたと言うし、もしかしたら、出来心だったのかもしれません。ま、どんな事情があるにせよ、盗みに入っちゃあいけないんですが。
さて、その後はどうなったかと申しますと。
相手が逃げたのにつられて、康成は玄関まで追いかけた。物音で、夫人もとび起きて、
「梶井さん、梶井さん」
と呼んだが、梶井はなかなか下りてこなかった。こわかったためだ、ということだった。
梶井先生ひどい。
でも、可愛い(笑)
何はともあれ、川端先生御夫婦も梶井先生も無事でよかった。
それもこれも、川端先生の「薄気味悪い(by.梶井先生)」眼力のおかげですね、めでたしめでたし。
毎日恒例の宣伝を挟みまして。
川端先生の眼力によって助けられたのに、「薄気味悪い」って随分だよね、梶井先生(笑)梶井先生ひどい。
ま、泥棒騒ぎと「薄気味悪い」発言、どっちが先か、正確なことは分かりませんが。
これだけ「梶井先生、梶井先生」と連呼したので、次は梶井先生の短編を読もうと思います。泥棒が怖い梶井先生の短編を。