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物書き(小説家・シナリオライター)の山口夢です。

明治時代版「明日から本気出す」―二葉亭四迷『浮雲』感想文②―

 

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昨日までのあらすじ。

 

◆主人公・文三くん

職業:無職

特技:言い訳、逆ギレ

必殺技:絶交

ぶんぞう は こんらん している!!

 

……とうとう愛しのお勢ちゃんにも絶交を言い渡してしまった文三くん。まだ結婚も確定していないうちから「綺麗に別れようじゃありませんか」と告げてしまいます。

そもそも、お勢ちゃんから「好き」のひと言も貰っていないのに、文三くんはどうしてこうも自信があるんでしょうか。

もし相愛(両想い)していなければ、文三に親しんでから、お勢が言葉遣いを改め起居動作(たちいふるまい)を変え、蓮葉をやめて優に艶(やさ)しく女性らしくなるはずもなし【中略】

もし相愛していなければ、婚姻の相談があった(※文三に見合い話が来た)時、お勢が戯談(じょうだん)にかこつけてそれとなく文三の肚を探るはずもなし、また叔母と悶着をした時、他人同前の文三を庇護(かば)って真実の母親と抗論する理由もない。

「イヤ妄想じゃない、おれを思っているに違いない……ガ……」

──二葉亭四迷浮雲』 

う~ん……うん、そうかなぁ……??

つまり、文三と仲良くなってからお勢ちゃんが女っぽくなったし、自分のお見合い話に興味を持ち、母親と文三の喧嘩に割って入って、自分の味方をしてくれた(=僕のことが好き)……ってことでしょ??

根拠、弱くね????

お勢ちゃんは18歳。

令和と明治では、多少なりとも感覚が違うとはいえ、女っぽくなるにはちょうどよいお年ごろ。他人の恋バナに首を突っ込みたくなる年ごろとも言えるでしょう。

喧嘩の味方は……うん。もとからそんなに仲のいい母娘じゃないしネ。

この時代、恋愛結婚はものすごく珍しく、親の決めた相手と結婚することが常識であり、お勢の両親が文三に結婚を匂わせている以上、文三くんがその気になるのは分からなくもないのですが。

お勢ちゃんが僕には優しく、ライバルの昇には冷たいから大丈夫と思ってるあたり……ねぇ文三、「嫌よ嫌よも好きのうち」って知ってる?? まっっっったく圏外の相手のほうが、案外優しく接することもできるんだけど……だって、興味がないからサ。冷たくすんのも面倒くさいのサ。

しかも、一緒に暮らす文三を、そうめったやたらに邪険にもできないでしょ??

 

ま、そんなこと分かんないかーーーーーっ、文三くんだもんねーーーーっ!!!

 

っていうか、お前働けよ。

問題はそこだよ、そこ。とにかく脱・無職を達成しないことにゃあ、お勢の両親も安心して娘を嫁に出せないでしょうが。

おまけに、だよ?? 昇くんという優良物件が近くにいて、これまた娘に気があると来てる。そんなん、ご両親だって、文三くんから昇くんに心変わりをするでしょうが。

 

しかし、働かない。

働かないばかりか、絶交宣言から3日と経たず、お勢ちゃんの部屋に入って「少しお噺が……」と、切り出した文三くん。

お勢ちゃん、マジギレです。

そりゃそうだよ、文三。意志がふにゃふにゃだよ、文三

大事な娘を傷つけた文三に、お勢ちゃんの母上も大激怒。今さら謝ったって遅いのであります。

さあ、文三くん。これでこの家にも居づらくなったぞ、今こそ新しい仕事を見つけ、間借りしていたこの家を飛び出すのです──!!!

あれほどまでにお勢母子の者に辱められても、文三はまだ園田の家を去る気にはなれない。ただ、そのかわり、火の消えたように、鎮まッてしまい、いとど無口が一層口を開(き)かなくなッて、呼んでもはかばかしく返答をもしない。用事がなければ下へも降りて来ず、ただ一間にのみ垂れ籠めている。

──二葉亭四迷浮雲 

働けーーーーっ!!!

何を引きこもってるんです!? もうお前に残された道は、新しい仕事を見つけて立派になり、お勢母子を見返すことくらいだぞ!? 

もうその家にいても、お勢ちゃんを嫁に貰うことは不可能だ!! むしろ、居座れば居座るほど、その可能性は薄れていくぞ!!!

なんでそんなにこの家から出ていかないの!?

重な原因というはすなわち人情の二字、この二字にしばられて文三は心ならずもなお園田の家に顔を皺(しか)めながら留まッている。

──二葉亭四迷浮雲 

ヤバい、なんかメンドクサイこと言い出した。

そんな顔すんなら出てけよ、マジで。

今がお勢の一生中でもっとも大切な時、よく今の境界を渡りおおせれば、この一時にさまざまの経験を得て、己の人となりをも知り、いわゆる放心を求め得て始めて心でこの世を渡るようになろうが、もし躓(つまづ)けばもうそれまで、倒れたままで、再び起き上がることもできまい。

【中略】

このままにはしておけん。早く、手遅れにならんうちに、お勢の眠った本心を覚まさなければならん、が、しかし誰かお勢のためにこのことに当たろう?

【中略】

ただ文三のみは、愚昧ながらも、まだお勢よりは少しは智識もあり、経験もあれば、もしお勢の眼を覚ます者が必要なら、文三を措(お)いて誰がなろう?

──二葉亭四迷浮雲

ねぇ、文三……ちょっとの優しさを好意としたり、「君の目を覚ましてあげたい」とか「本当の君を分かってるのは僕だけだよ」って言い始めるの、すごくごめんなんだけど、思考回路がストーカーのそれだよ。

よく考えたら、「僕に微笑みかけてくれた」程度のことで「僕を愛してるんだ!」と、勘違いできるタイプのストーカーって、スーパーポジティヴだよね。

文三くんも、うじうじぐずぐず悩んでるから分かりづらいけど、思考パターンは超ポジティヴだからね、令和の時代に生きていたら、あわやストーカー規制法でお縄だよ!?

危ない危ない。

まあ、それだけお勢ちゃんのことを想い、何かをしてあげたいと考えるのは、悪いことじゃないのかもしれないけど……。

 

考えるだけで何もしないのが、我らの文三くんである。

何もしないの、ほんと~~~~に何もしない。何もしないまんま物語は最後のページに来ちゃって、おいおいどうなるんだよ、と思って最後の1行。

今にも(お勢が)帰ッて来たら、今一度運を試して聴かれたら(声をかけられたら、等の意)その通り、もし聴かれん時にはその時こそ断然叔父の家を辞し去ろうと、ついにこう決心して、そしてひとまず二階へ戻った。

──二葉亭四迷浮雲

そしてひとまず二階へ戻った。

お前それ絶対にどっちへ転んでも家から出ないヤツだろうが!!!! っていうか、何ナチュラルに二階へ戻ってんだよ!!!!

働け~~~~ッ!!!!!

 

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毎日恒例の宣伝を挟みまして。

読書をしながら、こんなに「働け!!!」って思ったことないよ!? というレベルで、「働け」を連呼した小説『浮雲』。

文三くんを見ていると、「明日から本気出す」とか「俺はまだ本気を出してないだけ」っていう、平成の流行語を思い出したよね。

その先駆けは、どうやら二葉亭四迷先生の『浮雲』だったようです。

さすが、4時代先にも名を遺す文豪。先見の明がおありでいらっしゃる。あやかりたい、あやかりたい。

(※ツッコミを入れまくっておりましたが、大変楽しく読了致しましたことを付け加えておきます:笑)

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