山口夢Official Blog

物書き(小説家・シナリオライター)の山口夢です。

深夜の『オベタイ・ブルブル事件』

『オベタイ・ブルブル事件』が小説のタイトルと分かった方、なかなかすごいです。まあ、これは二重カギカッコ(『』)で囲んでるから、注意深い人なら気づいたかな??

 

まさかの作者が分かった方、ぜひ師匠と呼ばせていただきたい!!!!

 

……さて、昨日も雑誌『新青年』について、ちょろっと書きましたが、

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『オベタイ・ブルブル事件』は、雑誌『新青年』に掲載された短編小説で、その作者は徳川夢声──文学に詳しい方より、映画に詳しい方のほうがお馴染みの名前かしれませんね。

ja.wikipedia.org

困った時のWikipedia先生に頼ってしまいましたが、多方面で活躍した徳川夢声氏の、まず初めの職業は「活動弁士」でした。

(活動)弁士とは、昔々、映画に音声がついておらず、まだ「活動写真」と呼ばれていた時代、その音のない映像に、語りをつけていた人たちのこと。

現在放送中の大河ドラマ『いだてん』でも、映画館のシーンでちょろっと登場していましたね?? 主人公の四三と弥彦が、ストックホルムオリンピックの活動を並んで観てるシーンだったかな??

 

ちなみに、活動弁士は日本固有の職業です。

この弁士に加え、実写である映画にも「女形」を登場させるという、これまた独自の文化2点が障害となり、日本映画は随分と世界から遅れを取った……なんて話もありますが、そのあと追いついたんだからそこは別にいいじゃね?? ってことで。

つまるところ、弁士は日本における素晴らしい文化です。

 

そのなかでも、人気を博した活動弁士のひとりが『オベタイ・ブルブル事件』の作者・徳川夢声氏。

 

これはちょっとした余談ではありますが、10年ほど前に亡くなった大正生まれの私の祖父は、幼い頃、映画館の近くに住んでおり、よく裏から入れてもらって、無料で映画を観ていたそうです。

この祖父が、またべらぼうに記憶力に優れていて、昔の映画についてよく覚えておりました。

大学で映画を専攻した私は、日本映画史の授業で学んだ知識をすぐさま祖父に披露して、今はもう現存しないフィルムを観た、当時の生の感想なんかを詳しく聞いたもんでした。

そんな祖父に、「おじいちゃんの好きな弁士は誰?」と聞いたところ、「俺の時代には、もう弁士もかなり廃れてはいたけれど」という前置きはあったにせよ、答えはやっぱり「徳川夢声」。

まあ、そのくらいの「ベタ」だと思っておいてください。

 

話は元に戻りますが、昨晩なかなか眠りにつけなかった私は、読みかけの『現代殺人百科』を読む気にもならず(※こうして読書に挫折するのですが)、ぼ~っとベッドで考え事をしていました。

その時ふと、「うちにある本のなかで、1番文体が軽やかな作品はなんだろうか」と疑問が湧きまして。

本棚のラインナップをざっと思い描いてみて、結果、「ああ、徳川夢声の短編がある」と。

時刻は午前2時半。

ど深夜に本棚を漁り出し、『新青年傑作選3』(立風書房)を手に取りました。

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読んだのは数年ぶりなんですが、いやぁ~~~~これがまあ面白かった。

 

私も弁士を生で観たのは1回あるかないかなんで、そうハッキリとは言えませんが、弁士も話芸の1つですから、落語や講談に似ているんですね。たぶん。

『オベタイ・ブルブル事件』の語り口やテンポは、日本の話芸そのものなんですよ。

たとえば、これは物語の導入部分なんですが、

それは非常に蒸し暑い、或る夏の晩の出来事であった。その夜の蒸し暑さは、全ったく非常であって、冷蔵庫に入れといた豆が、翌朝茫々たる萠し(もやし)となって現れ、縁先のキリギリスが苦しまぎれに、狭い籠を跳ね廻ったので、六本の足は悉く脱落し、ついに発狂して胴なかだけになっても物狂わしくまだ鳴いていた、と云うような暑さだ。

──徳川夢声『オベタイ・ブルブル事件』 

暑いからって、冷蔵庫のなかの豆がもやしになるなんて、そんなバカな話があるワケない……ってあたりが、まさに落語ですね。

徳川夢声氏の文章を読んでいると、いつの間にか好きな噺家さんの音声で再生されるてるんですよ。(※私、落研出身でもあるんで。日本の話芸が好きなんですよ)

 

また、徳川夢声氏は話芸の達人のなかでも「活動弁士」であって、その文章には、落語的な描写のほかに、映画的な描写も含まれているのです。

これは、とある博士が急死した直後の描写ですが、

奥さんは急に恐ろしくなって、狼に襲われた羊のような悲鳴をあげた。それを聞いて驚いた女中は、狼狽てて二階に馳け上った。その場の有様を見てとるや、急に恐ろしくなって、さながらライオンに襲われた狼のような悲鳴をあげた。それを聞いて驚いた博士はあわてて生き返った──と来れば、話はおしまいであるが、あいにく博士はグニャリ状態のままだ。ただ、女中の悲鳴によって天井の鼠夫人が流産の已むなきに至ったのは気の毒の至りであった。

閑話休題

──徳川夢声『オベタイ・ブルブル事件』 

急死にともなうてんやわんやの顛末から、急に視点が天井裏へ移動するのが、映画って感じしますよねぇ。

洋画なんかで、よくあるじゃないですか。

「道端でケンカしているカップルが、結局仲直りして去っていく一部始終」から視点を上へ移動させると、「実はそれを夢中で見ていた窓ふきの青年が2階にいて、窓が必要以上にピッッッカピカになっていて、ワオ! びっくり!!」……みたいな、話の本筋とはまったく関係のないコメディーシーン。

 

素晴らしいですよね、徳川夢声氏。

活動弁士」という職業を最大限に生かした文体に遊び心。今回紹介はできませんでしたが、構成もカチッとしていて落語的・映画的であり、ふんだんに社会風刺も盛り込まれている……。

べ、勉強させていただきます!!!!

ということで、さっそく徳川夢声作品集を、昨晩の深夜3時にAmazonで注文致しました。明日届きます、超楽しみ。

 

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毎日恒例の宣伝を挟みまして。

……っていうか、徳川夢声氏のWikipedia見ました??

「彼氏」や「恐妻家」という造語の産みの親らしいですよ?? 徳川夢声がいなかったら、今の女子高生が言うところの「彼ぴっぴ」も産まれなかったワケです(?)

しかも、最期の言葉が「おい、いい夫婦だったなあ」って素敵過ぎません??

やだ……ここ5年で1番きゅんとしたかもしんない……もうファンだ……まだ『オベタイ・ブルブル事件』しか読んでないけど、「好きな作家」を聞かれたら、今日から「徳川夢声先生です」って言おう……。

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