そういえば、読み終わっていた江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』。
昨年末に家族旅行で訪れた三重県・鳥羽が『パノラマ島綺譚』の舞台となった「M県T市」である、という説があり、同地を訪れた記念に読み始めました。
鳥羽にある「江戸川乱歩館」へ行った話はこちらから↓↓
この『パノラマ島綺譚』は、当時、江戸川乱歩が寄稿していた雑誌『新青年』初の長編小説で、あらすじを簡単に言うと、
「莫大な資金をつぎ込んで、ひとつの島に人工的な夢の国を作り上げる話」
……です。
海中を歩けるガラスの通路や人工の丘、池など、現代科学では可能な技術が多くなってしまったのが、少し残念ではありますが、これを大正15年に着想していた江戸川乱歩先生は、やはり只者ではないな、と思いました。
『人間椅子』や『鏡地獄』を読んでも分かるとおり、只者ではない筋金入りの変人で変態です。
『パノラマ島綺譚』の情景描写も、細部に至るまで変人の変態を究めています。島ではこれといって酒を飲むシーンはないながら、その描写をずばり言い表すとすれば、まさに「酒池肉林」。
これでもかっ、というほど肉の蠢く島の空気に、読者も酔わされる、といった感じです。ここでいう「肉」が一体なんの「肉」なのか、そこは皆さんが実際に読んで確かめてください(笑)
それにしても、この小説、一応はミステリーなんですよ。
あらすじとして「人工的な島を作り上げる話」とは言いましたが、ドキドキわくわくの冒険小説というワケではございません。
これは本当に本当の冒頭部分に書いてあることなんで、一部引用致しますが、
ところが、不幸にも、この大事業は、やっと完成するかしないに、思わぬ出来事の為に、頓挫を来したのです。
それが、どういう理由であったかは、ほんの一部の人にしか、ハッキリは分って居りません。なぜか、事が秘密の中に運ばれたのです。その事業の目的も性質も、それが頓挫を来たした理由も、一切曖昧の内に葬られて了ったのです。ただ外部に分っていることは、事業の頓挫と相前後して菰田家の当主とその夫人とが、この世を去り、不幸にも彼等の間に子種がなかった為、今は親族のものがその跡目を相続しているということ丈けでした。
──江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』
……ね??
ちょっと長くなってしまいましたが、読んでいただいたとおり、「菰田(こもだ)家」の当主と夫人が亡くなってるんですよ。
その裏には事件があり、それを解決する一連の流れも描かれるワケなんですけど、作者の「これを書きたい!!」という情熱が、島の情景描写に集中してしまっているせいか、読了直後の感想は「私は一体何を読んだの……?」になりました(笑)
完全に酔ってますね、島の空気に(笑)
島の情景描写に力を入れ過ぎたことは、のちに江戸川乱歩先生御本人も反省されていて、
連載中は余り好評ではなかった。初めの方の○○○○○○○(※ネタバレのため伏せます)の個所は面白いにしても、この小説の大部分を占めるパノラマ島の描写が退屈がられたようである。ポーの「アルンハイムの領地」や「ランダーの屋敷」が私の念頭にあったのだが、出来上がったのは、意あって力足らぬ平凡な風景描写でしかなかった。しかし、発表後、年がたつにつれて、チラホラ好評を聞くようになった。中にも萩原朔太郎さんが、私の家の土蔵で酒を酌み交しながら、この小説をほめてくれたことを忘れない。それ以来、この作品に少しばかり対外的自信を持つようになった。
──昭和37年4月27日「朝日新聞」より
そもそも描いている風景が平凡ではないから、「平凡な風景描写」には決してなり得ないんですが、確かに、ぜぇ~~~んぜん島のゴールにたどり着かず、延々と島のなかを探検させられていた時は、2回ほど読むのを挫折しかけました(笑)
だって、冒頭の冒頭で人が死ぬって分かってんのに、まったく死ぬ気配がなかったんだもん。ずっと探検してるんだもん。
っていうか、私ったら自分もライターのクセして、よく読書挫折するよねぇ。頑張れよ、私。
毎日恒例の宣伝を挟みまして。
先ほど引用した「朝日新聞」の記事のように、乱歩先生の本って、あとがき代わりに「自分の作品を振り返る」みたいなコーナーがおまけについてることが多いんですけど、私これ読むの好きなんですよ。
割とマイナス思考で(笑)
『パノラマ島綺譚』も3回ほど振り返っていらっしゃいますが、そのすべてで「連載中は好評じゃなかった」って愚痴ってるし。毎度毎度「当時『新青年』の編集者だった横溝正史くんに巧みに勧められ」って、さも横溝先生が悪いみたいな言い方すんのよ。
なんか可愛い(笑)
私が愛してやまない金田一耕助を生み出した横溝先生、とんだとばっちりですよ。
とにかく、萩原朔太郎先生に褒めてもらえてよかったね、乱歩先生。
褒められると嬉しいよね~~~~!!! 私も誰かに褒められたい!!!(昨日に引き続く結論)