以前、『声優で落語くじ』を書いた時の話をしたと思うんですけど。
まったく意識はしていないし、むしろまったく知らないジャンルだったのに、出来上がった作品(ドラマCD)を聴いた方たちから、
「王道のBL」
という評価をいただきました。
あの頃の私にとって、その評価は本当に意外で、「無意識に王道を書いてしまうということは、まさか天賦の才があるのでは……??」と、至極前向きに悩んだものです(笑)
そして、『声優で落語くじ』の発売から、ほんの1ヶ月経った頃のこと──
まさかまさか、完全BLのお仕事の依頼が来てしまいました。しかも、バッチリ年齢制限アリ。
『声優で~』が、ほとんど初めての仕事だったのに、第2弾でいきなりハードル高過ぎない!? とは思いましたが、そこは仕事断らないマン山口。
「できるかどうか分かりませんが、精一杯の努力はします(※いつもの返事)」で、お引き受けすることになりました。
詳しくねぇなら仕事引き受けてんじゃねぇよ、というお声もあるとは思いますが、そんなことを言っていたら、いつまで経っても仕事が増えない。新たなジャンルに挑戦して、自分の得意分野を増やすことはお許しいただきたいのです。
(これ、先に結果を言っておくと、超過密スケジュール・度重なる連絡ミス・理不尽過ぎる要求・突然のクビ申し渡しと来て、「山口が作業した分は製品に使用しない代わりに、ギャラも発生しない」という約束で降板したのですが、約半年後、ネット広告で完成した製品を見かけたところ、私の作ったキャラ設定がすべて使用されていたという、無茶苦茶企業オリンピックぶっちぎりの金メダルって感じの終わりを迎えた作品です)(ちなみに、その後何度となく連絡しても電話に出なかった)(ギャラも貰ってない)
ま、結果は結果として。
お仕事を受けた当初の私は、なんとか面白い作品にするつもりでいました。
しかし、BLのことは正直何も分かってなくて、でも、分かんないまんま「それっぽい」何かを作ることも、BLを好きな人たちにとっては失礼な話だと思っていて。
これはあくまでも自論ですが、
誰かの「好き」にお邪魔する時は、まず「好き」になる努力をしたい。
それが、そのジャンルを好きでいる人たちへのリスペクトっていうか。
先住民をないがしろにすると、だいたい戦争が起こるじゃないですか。アメリカの開拓民とインディアンとか、各国・各時代の宗教戦争とか。急に話でっかくなっちゃったけど。
まあ、そうはいっても、作り手だって人間で、「好き」になる努力はしてみたけど「好き」にはなれない、っていうパターンもある。
ただ、「好きになる気持ちは分かる」くらいの理解度は持ちたいな、と思っています。
んで、問題のBLですが。
どうやったら「好きになる気持ち」くらいは理解できるかな?? と、考えたんですよ。
これ、難しいな、と。
年齢制限のついた作品ということもあり、こういっては誤解を招くかもしれませんが、性的っていうか、人間のディープな部分に根づいた好みっていうか、そういうものは、本来なら時間をかけて自分の心や脳みそにじっくり植えつけていくものだと思うんですね。
しかし、当時の私には時間がなかった。
そこで、錯覚を利用することにしたのです。
「吊り橋理論」ってあるじゃないですか。
吊り橋を渡るドキドキ感と、恋のドキドキ感を勘違いして、一緒に渡った相手を「好きかも」って思っちゃう、あれ。
私、昔一緒にホラー映画観た人と付き合ったことがあって(笑)、その時みんなに「それただの吊り橋理論だよ」って散々言われたんですよ。
つまり、自分に錯覚は有効かもしれない、という前例があったんですね。
その日から、Pixivとかいろんなサイトを巡って、
「男女(=これをNLということもこの時知った)」⇒ NL ⇒NL ⇒BL ⇒NL ⇒NL ⇒NL ⇒BL ⇒……と、いった感じで、見慣れた「NL」のあいだにときどき「BL」を挟み込み、「可愛い」「ドキドキ」「キュンとする」という感情を、「BL」にも抱かせる作戦でした。
吊り橋理論、あるいは、ものすご~~~くゆっくりなサブリミナル効果(笑)
4枚に1枚「BL」から、3枚に1枚、2枚に1枚、1枚おき、そのうち「BL」を多くして4枚に3枚……そして、最終的には「BL」だけの画像をひたすら見続ける日々が続きました。
たぶん、3日間でBLだけでも5000枚近く見たと思う。
1時間に1回くらい「私は一体何を……?」と一瞬正気に戻りかけたけど(笑)、膨大な数の画像、っていうか、いろんな方が「好き」だと思って描いた結晶を眺めているうちに、なんとなく「好き」な気持ちは理解できたような感じがしました。
「おっ、BL好きかもしれない」と思った瞬間も、何度もあったよ。
まあ、結局は途中でクビになっちゃったから、ちゃんと理解できていたのかどうか、ちゃんと理解できているのかどうか、まだ答えは出ていません。
それに、BLを本当に愛している人たちからすれば、私のこの方法に嫌悪感を抱く方もいるでしょうし、単なる付け焼刃の「好き」だと思うのでしょう。
確かに、付け焼刃ですよ。分かってます。
でも、あの頃頑張って目を通した5000枚の画像たちは、今、私が書く作品のどこかに生かされているということも感じているし、向き合ってよかったな、と思ってるんです。
いつもの宣伝を挟み、最終的に自分の収穫の話になっちゃってごめんなさいね。
皆さんにひとつ言えることは、結構効きますよ、吊り橋効果。